研究内容の紹介
前頸部表面筋電位を利用した舌運動識別法の開発
舌は,嚥下,咀嚼,構音など様々な口腔機能において重要な役割を担っています.しかし,口の中に各種センサを挿入したり,X線透視装置などを用いない限りは,舌の運動を直接観察することは難しいです.そこで本研究では,人工知能(機械学習)の一つであるサポートベクターマシンやディープラーニング(深層学習)を用いて,前頸部で観察した舌骨上筋群や舌骨下筋群の表面筋電位信号から,舌の運動,下顎の運動,嚥下,舌尖力などを,非侵襲かつ安全に識別しうる独自技術を開発しています.
Makoto Sasaki et al., Tongue interface based on surface EMG signals of
suprahyoid muscles, ROBOMECH Journal, 3:9, DOI:10.1186/s40648-016-0048-0, 2016
Makoto Sasaki et al., Oral motion classification of the elderly for prevention
and rehabilitation of dysphagia Mechanical Engineering Journal, vol.7,
no.1, DOI:10.1299/mej.19-00076, 2020
重度障害者の生活支援のための舌インタフェースの開発
舌の運動機能は,頸髄損傷などによる重度障害者においても残存しやすい特長があります.そのため,舌は「口の中の手」や「第3の手」と呼ばれることもあります.本研究では,両手両足が不自由な重度障害者の自立的な生活支援を目的とし,舌運動により電動車いすやPCなどを操作するための研究を進めています.
コース紹介動画,テレビ岩手,オープンキャンパス,The Japan Times
Yukiya Nakai, Makoto Sasaki et al., Development of sEMG-based robust oral
motion classification method and its application to electric wheelchair
operation, Mechanical Engineering Journal, vol.6, no.6, DOI:10.1299/mej.19-00144, 2019
舌骨上筋群と舌骨下筋群の筋活動に着目した嚥下機能評価法の開発
近年,嚥下機能が低下し,窒息や誤嚥性肺炎で命を落とす高齢者が急増しています.本研究では,科研費基盤研究(B)や地域イノベーション・エコシステム形成プログラムの支援のもと,長崎大学病院摂食嚥下リハビリテーションセンター
玉田泰嗣先生らと共同で,前頸部生体信号を用いた様々な嚥下機能評価技術の開発を行っています.
具体的には,生体信号の画像情報を用いたAIベースの嚥下機能評価,筋シナジー解析による嚥下機能評価,時系列データ予測を用いた舌骨の運動推定などがあり,学生と一緒に特許出願等も積極的に行っています.
紹介動画,研究シーズ
Masahiro Suzuki, Makoto Sasaki et al., Swallowing pattern classification
method using multichannel surface EMG signals of suprahyoid and infrahyoid
muscles, Advanced Biomedical Engineering, vol.9, pp.10-20, DOI:10.14326/abe.9.10, 2020
咀嚼・嚥下・呼吸の協調運動に着目したウェアラブルセンサの開発
窒息や誤嚥を引き起こすことなく安全に食物を飲み込むためには,嚥下・咀嚼・呼吸の協調が不可欠です.本研究では,公益財団法人JKAからの研究補助を受け,「安心安全な食の場を創生するための食事見守りシステムの開発」に挑戦しています.このプロジェクトでは,耳周辺の生体信号から食事イベントを検出しうる独自技術(特願2020-154659)をもとに,東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 戸原玄教授,長崎大学病院特殊歯科総合治療部・摂食嚥下リハビリテーションセンター 玉田泰嗣助教,医療福祉機器メーカーであるタカノ株式会社と共同で,食事を妨げることのないウェアラブルセンサの実用化を目指しています.
プレスリリース
舌の運動機能と感覚機能の評価装置の開発
舌は,嚥下,咀嚼,構音と密接に関わりますが,その機能を定量的に評価するための装置は十分に開発されていません.そこで本研究では,文部科学省地域イノベーション・エコシステム形成プログラム(次世代プロジェクト)にて,左右,上下,前方向への舌の3次元的な力発揮能力や,動的刺激に対する舌の感覚機能等を評価しうる,新しい舌機能評価装置の開発を行っています.
これまでの研究を通して,加齢による舌機能低下を既存装置より高精度で評価できることを確認しており,現在は産学連携にて装置の実用化に挑戦しています.
XR技術と最適化技術を組み合わせた介助歯磨き訓練シミュレータの開発
口腔内の常在菌により形成されるデンタルプラークは,う蝕や歯周病の原因であるほか,高齢者の誤嚥性肺炎にも密接に関わっています.口腔ケアの現場では,歯科専門職ではない介助者や看護師等が,高齢障害者に対する介助歯磨きを行いますが,コロナ禍のためスキル習得のための十分な訓練を実施できない問題があります.そこで本研究では,
JST A-STEPの支援のもと,東北大学大学院歯学研究科 佐々木啓一教授(理事・副学長)や東北大学病院 猪狩和子先生と共同で,XR技術(VR, AR, MR技術)と最適化技術を組み合わせた「with/postコロナ社会における新しい訓練支援システムの実現」に挑戦しています.
摂食嚥下障害者のリハビリ支援システムの開発
平成23年度に,我が国の死因第3位は肺炎となりました.肺炎で亡くなった方の9 割以上は高齢者で,その約半数は摂食嚥下障害(誤嚥性肺炎)が原因とされています.
本研究では,摂食嚥下機能を鍛えるための「舌運動訓練」に着目し,楽しくゲーム感覚でリハビリテーションを行える口腔機能訓練システムを試作しました.本システムは,舌骨上筋群から舌運動を識別する独自技術(特許第5924724号)を用いたものです.
舌圧測定器を用いたバイオフィードバック訓練システムの開発
舌を口蓋に押し付けられる能力(最大舌圧)は,加齢や嚥下障害により低下することが知られています.この研究では,舌圧の変化をリアルタイムに計測し,ゲーム操作に利用することで,舌機能の検査と訓練を同時に実現するバイオフィードバックシステムを開発しました(特許第6815580号).
本アプリの使用をご希望の方は,研究室の連絡先から,お気軽にお問い合わせください.
車いすの最適設計に関する研究
車いす駆動に伴う最も深刻な問題は,上肢痛,関節筋腱板や尺骨神経の損傷,手根管症候群などの2次的障害の発症です.本研究では,様々な条件で駆動評価を実現しうる車いすシミュレータを開発し,3次元筋骨格モデル解析と組み合わせることで,実測困難な筋張力や関節間力を推定し,個々人に最適な車いす(寸法,形状,駆動方式など)を設計する手法を開発しました.
Makoto Sasaki et al., Shoulder joint contact force during lever-propelled
wheelchair propulsion, ROBOMECH Journal, 2:13, DOI:10.1186/s40648-015-0037-8, 2015
レバー式車いす駆動装置e-armの開発
JST復興促進プログラムマッチング促進(タイプⅡ)の助成のもと,イー・アーム株式会社(企業責任者:竹田克義 代表取締役),岩手大学(研究責任者:佐々木誠),株式会社東邦テクノス,一関工業高等専門学校(中山淳
教授,三浦弘樹 准教授),横浜市総合リハビリテーションセンターと共同で,レバー操作式の新しい駆動装置を開発しました.
(イノベーションジャパン2021での紹介内容はこちら)
自走式車いすの車輪に取り付け,2本のレバーを操作するだけで,小さな力で前進,後退,旋回,そして停止を簡単に行うことができます.
本装置が,高齢者や障害児,片麻痺の方などの自立的な移動に役立てばと切に願っております.
ご興味のある方はこちらをご覧ください.
筋電バイオフィードバック装置の開発
聖隷クリストファー大学 柴本勇教授,株式会社パターンアート研究所と共同で,筋の活動状態をLEDで可視化するポケットサイズの「PALメーター」を開発しました.
左の写真は,摂食嚥下障害者の舌骨上筋群を鍛えるために用いたバイオフィードバック訓練の一例です.
「指伝話」をはじめとする様々な意思伝達装置との接続も可能です(動画1,2)
2チャンネル筋電スイッチ(ポータブル筋電計)の開発
筋電バイオフィードバック装置の上位機種として,「2チャンネル筋電スイッチ」を開発しました.
本装置は,腕や顔など随意運動可能な部位であれば,どこでも使用でき,市販のナースコールや意思伝達装置に簡単に接続できます.
また,EMGやIEMGをモニタリングするための2チャンネル表面筋電計として利用することも可能です.
学部3年生の実験科目「機械科学実験」では,この装置を利用し,「筋電信号を用いたロボット制御実験」を実施しています.実験の様子はこちらをご覧ください.
リハビリテーション遊具への応用
株式会社タミヤから「ロボクラフトシリーズ」というユニークなおもちゃが販売されています.
これらのおもちゃを「筋肉の信号」で動かせたら,障害児のリハビリテーションや教育に使えるのでは? そういった発想で,2チャンネル筋電スイッチでタミヤ製おもちゃを動かしてみました.また,スマホアプリである「スーパーマリオラン」も遊技することができ,様々な遊具に応用可能です.
フレキシブル多チャンネル電極&アンプBOXの開発
舌骨上筋群や舌骨下筋群の表面筋電位信号を多点計測するための多チャンネルフレキシブル電極や多チャンネル筋電アンプBOXを開発しました.現在進行中の電動車いす用「舌インタフェース」や嚥下機能解析用「多機能計測装置」として,幅広く利用しています.
Makoto Sasaki et al., Tongue Interface Based on Surface EMG Signals of
Suprahyoid Muscles, ROBOMECH Journal, 3:9, DOI:10.1186/s40648-016-0048-0, 2016
構音評価・訓練アプリ『スピトレ』の開発
聖隷クリストファー大学 柴本勇教授,株式会社パターンアート研究所と共同で,スマートフォンやタブレットを用いた構音評価・訓練用アプリを開発しました.
①評価編:発音,発声持続時間,声量を評価・記録するアプリです(動画).
②トレーニング編:Sphero社のロボティックボールを「声」で操作する訓練用アプリです(動画).
人工股関節シミュレータの開発
佐賀大学在籍時に,同大学医学部整形外科学の佛淵孝夫教授(前佐賀大学長),理工学部の木口量夫教授(現九州大学教授)のご指導のもと,股関節の3次元運動と関節面に作用する力を同時に再現可能な人工股関節シミュレータを開発しました.そして,位置と力のハイブリッド制御やインピーダンス制御を適用し,脱臼メカニズムの解明に挑戦しました.
佐々木誠他, 股関節運動シミュレータの開発と人工股関節の脱臼評価,日本臨床バイオメカニクス学会誌,vol.29,pp.349-353,2008